測定周波数によるコイルの公称値と測定値の差について

コイルのインダクタンスを測定したら、コイルに印刷された値( 公称値 )とかけ離れた表示が出たという
経験はありませんか?
そんな経験がある方は、参考にしてください。

 
よく見かけるお馴染み品です。

コイル表面に印刷された公称値と実際の測定値が異なる事があります。
それは何故なのか? 実際に測定して検証してみました。

一般に販売されている太陽誘電(株)製のコイル( インダクタ )を使用しました。
下記データは、太陽誘電(株)さんのホームページより転載しています。

太陽誘電 LHLZ06NB 1R0 M6A34-KPDV
インダクタ 1.0μH 3.4A(max,)
インダクタンス許容差:±20% Q:20(min,)
自己共振周波数:85.0MHz(min,)
直流抵抗:0.026Ω(max,)
測定周波数:7.96MHz

太陽誘電 LHLZ06NB 100K 4A54-LPD8
インダクタ 10μH 1.7A(max,)
インダクタンス許容差:±10% Q:30(min,)
自己共振周波数:18.0MHz(min,) 
直流抵抗:0.1Ω(max,) 
測定周波数:2.52MHz

太陽誘電 LHLZ06NB 101K 4A64-KPD6
インダクタ 100μH 0.57A(max,)
インダクタンス許容差:±10% Q:20(min,)
自己共振周波数:5.6MHz(min,) 
直流抵抗:0.77Ω(max,) 
測定周波数:0.796MHz 

太陽誘電 LHLZ06NB 102 J4A74-LPDD
インダクタ 1mH 0.16A(max,)
インダクタンス許容差:±5% Q:50(min,)
自己共振周波数:1.6MHz(min,)
直流抵抗:9.5Ω(max,)
測定周波数:0.252MHz

太陽誘電 LHL06NB 103 J6A84-LPDL
インダクタ10mH 22mA(max,)
インダクタンス許容差:±5% Q:40(min,)
自己共振周波数:0.7MHz(min,)
直流抵抗:96.0Ω(max,) 
測定周波数:0.796MHz 

太陽誘電 LHLC10NB 104 J8AZC-KREM
インダクタ100mH 38mA (max,)
インダクタンス許容差:±5% Q:30(min,)
自己共振周波数:0.085MHz(min,) 
直流抵抗:240Ω(max,) 
測定周波数:(L=1KHz / Q=252KHz) 


上記は、太陽誘電さんの測定器です。 当社も同じ機種を所有しています。

Qメーターは、HP 4285Aを使用しています。 
HP 285Aの周波数範囲は、75kHz - 30MHzとなっています。
HP 4262Aの周波数範囲は、
120(100)Hz, 1kHz,10kHz となっています。
測定周波数:規定周波数と記載されている様に、使用しているコイルのそれぞれの周波数で測定しています。
例えば100mHのインダクタンスは1kHzで、Q値は252kHzで測定しています。




実際に測定周波数の差で測定値がどう変わるのかを検証してみます。

通常、コイルのインダクタンスは測定周波数を規定して測定しています。

測定試料は以下の100μHを使用して、1kHzと0.796MHz( 796kHz )との差を調べました。
Agilent E4980A LCRメーターを使用しています。

太陽誘電 LHLZ06NB 101K 4A64-KPD6
インダクタ 100μH 0.57A(max,)
インダクタンス許容差:±10% Q:20(min,)
自己共振周波数:5.6MHz(min,) 
直流抵抗:0.77Ω(max,) 
測定周波数:0.796MHz 


インダクタンス値とQ値を1kHzで測定した結果です。
Q値は小さく、インダクタンスは2倍程度になります。
測定周波数が1kHzと796kHzとかけ離れているので、当然の結果なのですが。



太陽誘電さんの仕様通りの規定周波数で測定した結果です。
インダクタンス許容差:±10% Q:20(min,)の規格内に問題なく収まっているのが解ります。
このコイルは空芯ではなくフェライト・コアの上に線を巻いた構造なので、フェライトの周波数特性が影響しています。
この例に限らずコイルには周波数特性があり、周波数を考慮しないと正確な値が得られないとご理解ください。

お使いのLCRメーターにおいても測定周波数による測定結果が大きく異なる事も予想されます。
LCRメーターの故障やコイルの不良?と疑う前に、試料の測定条件とお使いのLCRメーターの測定周波数を考慮してみて下さい。
特に、コイルにフェライトなどのコアを使用している物は周波数に大きく依存します。
コイルと同様に、コンデンサでも若干の差が見られます。

正確なインダクタンス値を得ようとすれば、実際に使用する周波数で実測するのが理想です。
しかし現実はなかなか難しい( 測定環境が無いなど)ので、なるべく近い周波数で測定する事になります。
LC200Aは数100kHz台で測定でき、測定周波数も表示されるので自作派の強い味方となってくれます。




他のLCメーターではどうでしょう?

以下の画像・資料は、http://www.aade.com/lcm2binst/HP.html より転載しています。



低価格で人気があるLCメーターです。 現在は、右側の機種がキット・完成品で販売されています。
面白そうなので、1台買ってみました。

http://www.aade.com/lcmeter.htm で情報が得られます。
 
ところで、この機種は高精度が売り文句なのですが・・・・検証方法は、グレイ・ゾーンです。
検証方法は各メーカーの基準器を測定し、他社製( B&K 878 )と比較して精度が良いと書かれています。
例えば、下の画像にあるHP製の標準コイルを使用した例を見ると・・
測定周波数の土俵が全く異なるのに、測定周波数には全く触れずに測定値だけを評価しています。
これでは正しい評価方法とは言えません。
少なくとも、同一の標準コイルを比較するLCメーターの測定周波数も同一にしないと意味がありません。
この検証では測定値ではなく、標準コイルの銘板にある値を100%正確として誤差を求めています。
試料となる標準コイルの真値は、更に精度の高い測定器で測定した値を記入しなければ意味がありません。
この点が改善できれば、信頼性が増して良いのですが。


  




実際の使用感は、小さな値のコンデンサやコイルなどは数100kHz台で測定しているので、低価格ながら割合と好結果が得られる機種です。
1万円程度のLCRメーターの測定周波数が1kHz程度であるのを考慮すると、高周波向きの測定を主体にする人には最適だと言えます。
但し、この機種は測定周波数は表示されません。  表にある周波数は、信号を取り出して測定しているのはないかと思います。


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